西部戦線の英軍重砲
ベルギーの村の被害
廃墟を活用した通信壕
上 西部戦線の英軍重砲
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下 廃墟を活用した通信壕
(『欧州大戦写真帖』より)
 

カイゼン視点から見る

第一次世界大戦


A Review on World War I from Kaizen Aspect

第一次世界大戦の参考図書・資料

第一次世界大戦後の
日本の陸海軍 @ 陸海軍史

航行中の英艦隊
英軍の戦車
米軍の毒ガス対策
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カイゼン視点から見る日清戦争


第一次世界大戦後の日本の陸海軍 @ 陸海軍史

第一次世界大戦後の軍縮期(戦間期)の日本の陸海軍に関するもののうち、陸海軍史を通史的に記述しているものについてです。


藤原彰 『日本軍事史 上巻 戦前篇』 社会批評社 2006
(初刊 『軍事史』 東洋経済新報社 1961
増補再刊 『日本軍事史』 日本評論社 1987)

藤原彰 日本軍事史 上巻 表紙

著者は、昭和史の研究者ですが、1941年陸軍士官学校卒で、中国戦線に派遣されて戦った、という経歴を持っています。

本書は、幕末期・大塩平八郎の乱から昭和前期の敗戦までの、日本の軍事史の通史です。幕末期については、幕府および諸藩の状況が記述されていますが、明治期からは日本陸海軍史になります。本書の『下巻 戦後篇』は、自衛隊史です。

日本の陸海軍の通史として、基本的な知識を得ることができます。記述の一部に「教条的」と見られる表現もありますが、基本的にきわめて学究的で、記述中に史料が取り込まれており、また出典が明記されています。

ただし、日本の陸海軍史をわずか360ページほどで詳述するのはもともと無理なので、全体の流れと、重要事項についての史料が示されている書、と理解するのが適切でしょうか。

とくに詳細を知りたい事項について、基本史料や参考文献が何であるかが分かり、より詳細な考究の出発点として役立てることができます。そうした点から、本書には十分な価値がある、と言えるように思います。なお、本ウェブサイトでは本書からの引用等は行ってはおりません。


野村實 『日本海軍の歴史』 吉川弘文館 2002

野村實 日本海軍の歴史 表紙

海軍兵学校卒で、防衛庁防衛研修所の戦史研究室長や、防衛大学教授を歴任された海軍史家による、日本海軍の通史です。

長崎海軍伝習所から始めて、創設から敗戦までの日本海軍の歴史が記述されています。

日本海軍の通史として、基本的な知識を得ることができるほか、やはり、記述中に史料が取り込まれており、出典が明記されていますので、とくに詳細を知りたい事項について、基本史料や参考文献が何であるかが分かり、より詳細な考究の出発点として役立てることができます。

そうした点から、本書には十分な価値がある、と言えるように思います。本ウェブサイトでは「日本が学ばなかった大戦の教訓 B 艦隊決戦より最新兵器」のページで、本書からの要約引用を行っています。


戸部良一 『逆説の軍隊 (日本の近代 9)』 中央公論社 1998

戸部良一 逆説の軍隊 表紙

防衛大学校教授である著者による、明治期の創設時から昭和前期の敗戦による解体までの、日本軍史です。

著者は、「日本軍はさまざまの逆説を内包した組織」であったとし、その逆説性の代表例として、「統帥権独立」を挙げています。「軍の政治関与を防止するためにつくられながら、やがてその政治関与・政治介入を支える制度へと変貌し、最後にはその軍の解体・終焉を助ける役割を果たした」と指摘しています。

もう一つの例として、「天皇への忠誠」も挙げられています。「封建領主から中央集権国家の中心たる国王〔=天皇〕への忠誠の転換は、きわめて近代的な現象だった」のに関わらず、「蹶起将校に見られるような必ずしも近代性とはなじまない信仰的天皇崇拝と、いつしか併存し、同居していた」という点です。

日本軍は、「その近代化と成長の過程で変容をきたした」のだが、「なぜ変容をきたしたのかの原因を探り、実際にどのように変容したのかを解明する」のが「本書のねらい」とされています(プロローグ」)。

こうした「ねらい」から執筆されていますので、本書は、いわゆる通史、あるいは概説史ではありません。日本の陸海軍史について、この「ねらい」の観点から、さまざまな制度・規則や体制等の成立と変容に焦点をあてた記述がなされています。

巻末には、参考文献のほか、歴代の陸相・参謀総長とその任期も明示された、年表も付されています。日本軍が昭和前期の大失策を冒してしまった原因を理解する上で、本書は非常に高い価値がある名著の1冊、と言えるように思います。

本ウェブサイトでは、「日本が学ばなかった大戦の教訓 @ 戦争するより非戦争で工業化」、および「同 A 兵員数より最新兵器」のページで、本書からの要約引用を行っています。


山田朗 『軍備拡張の近代史 − 日本軍の膨張と崩壊』
吉川弘文館 1997

山田朗 軍備拡張の近代史 表紙

著者は日本軍事史の研究者です。本書は「近代日本の軍事力の歴史」を描こうとするものであり、「戦争でないときに軍事力がどのような考え方で、どれほどのエネルギーを費やして建設されたかに焦点を当てている」としています(本書 「はじめに」)。

本書を一言でいえば、1870年代から1945年までの、日本の陸海軍の軍備増強に関する通史、と言えるかと思います。「軍拡の実態を可能な限り数量データで明らかにすることをめざした」とされており、日本の軍事費統計を始め、師団・連隊の増設や建艦その他、軍備の増強についてのいろいろな資料・データも掲載されており、役に立ちます。

大きな価値のある1書であると思います。

本ウェブサイトでは、「第一次世界大戦の総括 B 兵器と軍事技術のカイゼン」「日本が学ばなかった大戦の教訓 A 兵員数より最新兵器」「同 B 艦隊決戦より最新兵器」のページで、本書からの要約引用を行っています。


伊藤正徳 『軍閥興亡史』 全3巻 初刊 文藝春秋新社 1957〜58
光人社NF文庫版 1998

伊藤正徳 軍閥興亡史 表紙

著者は戦前から戦後にわたり活躍したジャーナリストで、戦前はとくに第一級の海軍記者と言われた人です。

本書は、「陸軍の消長を回顧」するにあたり、「国家の機構内にある軍部そのもの」を指す「軍閥」という言葉をキーワードとしています。

「軍閥、その人を得て、一小島国を大国に導き、その人を誤ってこれを失う。そうしてこの盛衰得喪は、同じ日本人の手によって為されたものである。そこに多くの歴史的反省がなければならない」というのが、本書での著者の基本姿勢です。

全3巻のうち、第1巻は明治期を扱い、日露戦争まで、第2巻は日露戦後から昭和前期の近衛文麿内閣の登場まで、第3巻はそれ以後敗戦まで、という構成です。

上掲の藤原彰 『日本軍事史』は、研究者による学究的で簡潔な日本陸海軍史でしたが、伊藤正徳の本書は、ジャーナリストによる詳細な日本陸軍史、と言えるかと思います。

ジャーナリストによる著作だけに、非常に読みやすいだけでなく、学究的な研究書などには現れない話がたくさんあり、「読み物」として大変面白く読めます。日本陸軍史を知る上で、読む価値ありと思います。

ただし、ジャーナリストによる著作だけに、出典の記載はほとんどされていません。また著者が自身で経験していない明治期に関する記述(第1巻)の一部には、事実誤認も混じっているようにも感じますので、若干注意が必要かもしれません。著者自身が経験してきた第2巻以降の記述は、非常に面白く、迫力があります。

本ウェブサイトでは、「日本が学ばなかった大戦の教訓 A 兵員数より最新兵器」のページで、本書からの要約引用を行っています。


松下芳男 『日本軍閥興亡史』 芙蓉書房出版 2001
(初刊 『日本軍閥の興亡』 芙蓉書房 1974)

松下芳男 日本軍閥興亡史 表紙

著者は、大正2年に陸軍士官学校卒、しかし大正9年に歩兵中尉で退職、日大に入り直して法学博士となり、軍事評論家・軍事史家となった人です。

本書の書名は、上掲の伊藤正徳の著書と非常によく似ていますが、内容は大きく相違しています。そもそも「軍閥」という用語の定義が、両書で全く異なっています。

伊藤正徳の上掲書では、「軍閥」=「軍部そのもの」と定義されていました。したがって同書の内容は日本陸軍史と言えるものでした。

一方、本書の著者は「軍閥」を、軍の「特権を不当に利用して、国政の上に重圧を加えた軍部内の一団の政治的軍人」として、具体的には陸海軍大臣を頂点とする狭義の軍政関係者の一団や、参謀本部・軍令部の一部の軍人、と狭く限定していて、軍部そのものではない、としています。また、陸軍だけでなく海軍も扱われています。

著者は、この「政治的軍人」が「特殊の朋党的色彩」を持って、軍内でも国政関与の機会がある中央機関を独占する傾向があったことが問題であると見て、本書では、明治の建軍から敗戦による解体までの日本の陸海軍の歴史の中で、政治的軍人が国政に重圧を与えた47の実例と、それら政治的軍人の各人とその朋党的派閥に、焦点をあてて記述されています。

山県有朋は、早くも西南戦争の翌年に「軍人訓戒」を出して、軍人の政治的中立性を要求し、さらにその4年後の「軍人勅諭」で軍人政治不関与が訓諭されたのにかかわらず、山県自らが現役軍人のまま内閣総理大臣や内務大臣・司法大臣になり、さらに元老となったわけで、著者は「後世軍閥が政治に関与した端は、実にここに発した」と指摘しています。

本書では、明治初期の陸海軍内の藩閥から始まって、陸軍では長閥、海軍は薩閥が優勢となり、陸軍は長閥が大正期に陸大閥へと変質していく過程で宇垣軍閥と上原軍閥との対立を生じ、海軍は薩閥が退潮すると条約派と非条約の対立となり、さらに昭和になると陸軍は皇道派対統制派の対立となる、といった軍内派閥の変遷とその人脈の詳細が記述されています。

本書の著者、松下芳男が陸軍を退職したのは、「平和主義的、反軍国主義的、社会主義的思想をいだいているという理由で陸軍を追われ」たため(著者の別書 水野広徳の評伝)ですが、本書の中の著者の見方は、平和主義・反軍国主義・社会主義的な観点とは全く無関係で、あくまで軍人として優れていたのか、政治性はどうであったのか、朋党的派閥に属していたのか、などの評価に徹しています。

さらに、本書の最大の特色は、日本陸海軍の将官のうち、明治期は少将以上、大正期以降はおおむね中将以上の各人について、「政治的軍人」であった場合にはその具体的な政治関与や属した派閥・軍歴等が、また政治的軍人ではなかった人物であっても、その軍歴詳細や人物個性、エピソードなどが記述され論評されている、という点にあります。

この将官各人についての論評という点では、次に挙げる半藤一利ほかによる『歴代陸軍大将全覧』・『歴代海軍大将全覧』と同様ですが、本書では、大将だけでなく中将や一部の少将まで論評されていて、対象者がはるかに多いことから、いわば日本陸海軍の将官事典、といった性格も持っている、と言えるように思います。人名から調べられる索引も巻末に付いています。

非常に面白い本であり、読む価値は高いと思います。本ウェブサイトでは、「日本が学ばなかった大戦の教訓 @ 戦争するより非戦争で工業化」「同 A 兵員数より最新兵器」のページで、本書からの要約引用を行っています。

なお、上の本書のカバー写真中で、最上列の右端が上原勇作、右から二人目が宇垣一成、上から2列目の右端が加藤友三郎、右から三人目が山梨半造、一番左が田中義一です。


半藤一利・横山恵一・秦郁彦・原剛
『歴代陸軍大将全覧 大正篇』 中公新書ラクレ2009
半藤一利・横山恵一・秦郁彦・戸高一成
『歴代海軍大将全覧』 中公新書ラクレ2005

歴代陸軍大将全覧 大正篇 表紙 写真
歴代海軍大将全覧 表紙 写真

『陸軍大将』の方は、半藤一利ら3人の近代史研究家+1人の陸軍史家による、もう一方の『海軍大将』の方は、同じ3人+1人の海軍史家による、陸海それぞれの大将に対する論評です。

『陸軍大将』の方は、大将に昇進した時期による区分で、明治篇・大正篇・昭和篇上下の全4冊になっています。

本ウェブサイトで対象とした第一次世界大戦期および戦後の主要な将官のうち、例えば、青島攻略戦を行った師団長神尾光臣、対華21ヵ条要求の内容を提言した町田経宇、シベリア出兵を企画した田中義一、シベリア出兵時の浦潮軍司令官大谷喜久蔵・大井成元・立花小一郎、大戦後に軍縮を行った山梨半造・宇垣一成、それに対立して上原軍閥をつくった上原勇作など、すべてこの『大正篇』で取り上げられています。

ただし、第一次世界大戦開戦時の参謀総長だった長谷川好道や、シベリア出兵開始時の首相だった寺内正毅は、明治期に大将に昇格しているため、『明治篇』で取り上げられています。

また第一次世界大戦開戦時の陸相だった岡市之助は、中将どまりで大将になっておらず、本書の対象外です。そういう人物については、上掲の松下芳男 『日本軍閥興亡史』で確認いただく必要があります。

『海軍大将』の方は、時代区分がなく本書1冊なので、紙数の都合上、大将一人当たりの論評が『陸軍大将』より短いのが残念です。

本ウェブサイトで対象とした第一次世界大戦期および戦後の主要将官では、開戦時の海軍大臣八代六郎、開戦時の軍令部長島村速雄、青島攻略戦に参加した加藤定吉、南洋諸島占領を行った屋山他人、軍縮を行った加藤友三郎、艦隊派として軍縮に反対した加藤寛治などが大将となっているため、本書で取り上げられています。

両書とも、読む価値は十分にあります。

本ウェブサイトでは、「日本が戦った第一次世界大戦 C 青島攻略戦の経緯」、および「同 D 対華21ヵ条要求」のページで、『歴代陸軍大将全覧 大正篇』から要約引用を行っています。


次は、第一次世界大戦後の軍縮期(戦間期)の日本の陸海軍に関するもののうち、国防方針、用兵思想、総力戦など、個別の課題について論じているものについてです。


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